『釣りと自分』・・・遠い記憶 33 『あんま釣りでも鮎が釣れたんだからねー。凄い時代だったのかな』
『あんま釣りって何?』
『あぁ。こう?うーーんなんて言うのかな。6尺位の竿っていうか、 棒でもいいんだけどね、釣りだから竿か。まぁいいや。とにかく、 その先に少し竿より短めに糸を付けて、針とがん玉は流れと魚次第だね。』
『餌はさぁ、川虫。難しい仕掛けよりも、動作が大事なんだよね。 こう、アクションっていうのかな?』
渓太は立ち上がって、中腰で竿の様に持った割り箸で押したり、引いたりして見せた。
『こうやって誘うんだよね。あと、重要なのは足元の石を静かに動かして、 魚を集めるんだよね』
『石と魚と何か関係があるの?』
竿でも棒でもいいなんて言う釣りや、あの変な動きで釣っている人間を 川で見たことの無い僕は当惑していた。
『石に付いている川虫を剥がして、撒き餌さみたいにするんだよね 意外と腕の差?足の差が出るんだよね ハハハ これで鮎が1日に30匹や50匹釣れたんだからねー』
近頃、仕事のつまらない話ばかりしていた僕らは、久しぶりに渓太の 笑った顔を見た。 年明けの新年会の時期だというのに、今年は随分と暇で、店内にはもういくらもお客さんは残っていなかった。 いつか自分の店を持つんだったら、こんな店にしたいと思って始めた10数年前と、今ではすっかり違ってしまった。 一番置きたくないと思っていたテレビから、近頃一段と酷くなった、くだらなくて、うるさいお笑い番組をなんとなく流していた。 ちらっと見た視線を彼も分かったのか、
『最近では時間に関係なくこんな番組をやっているんだね』
二人とも少しうつむきながら苦笑いをした。 |